夫が亡くなり、妻と19歳・16歳の子が相続人になったら?
相続人の中に未成年者がいる場合、通常の相続手続きとは少し異なる点があります。
特に、亡くなった方の配偶者と未成年の子がともに相続人となるケースでは、**「特別代理人」**という制度を利用しなければならない場合があります。
ここでは、次のようなケースを例に、相続手続きの流れを分かりやすく説明します。
【事例】
夫が亡くなり、相続人が次の3人だったとします。
- 妻
- 19歳の子
- 16歳の子
この場合、19歳の子はすでに成年です。一方、16歳の子は未成年者です。
したがって、特に注意が必要なのは16歳の子の相続手続きです。
1.まず相続人を確定する
最初に、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を確認し、誰が相続人になるのかを確定します。
今回のケースでは、
妻+19歳の子+16歳の子
の3人が相続人です。
法定相続分は、
- 妻 2分の1
- 19歳の子 4分の1
- 16歳の子 4分の1
となります。
※実際の相続では、遺言書の有無や相続放棄、相続人の状況などによって手続きが変わる場合があります。
2.19歳の子は、通常の成年の相続人として手続きをする
現在の民法では、成年年齢は18歳です。
そのため、19歳の子は未成年者ではありません。
したがって、19歳の子については、原則として本人が自分で遺産分割協議に参加し、遺産分割協議書にも本人が署名・押印します。
「学生だから」「まだ親と同居しているから」という理由で未成年者になるわけではありません。
18歳以上であれば成年者です。
3.16歳の子については、親がそのまま代理することができない
ここが、このケースで最も重要なポイントです。
16歳の子も相続人ですから、遺産分割協議に参加する必要があります。
しかし、母親である妻も相続人です。
例えば、
「妻が夫の遺産を多く取得する」
という内容で遺産分割をすると、妻にとっては利益になりますが、16歳の子の取得分は少なくなります。
このように、
母親と未成年の子の利益が相反する関係
になるため、母親が16歳の子を代理して遺産分割協議をすることはできません。
家庭裁判所も、夫が死亡し、妻と未成年の子が相続人となるケースについて、妻と子は利益が相反するため、妻は子を代理できず、特別代理人を選任する必要があるとしています。
4.家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる
そこで、16歳の子について、家庭裁判所に
「特別代理人選任の申立て」
を行います。
特別代理人とは、今回の遺産分割協議について、未成年者の代わりに手続きをする人です。
特別代理人は、16歳の子の利益を守る立場で遺産分割協議に参加します。
特別代理人になるために、必ず弁護士などの資格が必要というわけではありません。
未成年者との関係や利害関係などを考慮して、家庭裁判所が適切な人を選任します。
5.遺産分割協議書の案を作成する
特別代理人の選任を申し立てる際には、どのような遺産分割を予定しているのかを家庭裁判所に示す必要があります。
そのため、
「遺産分割協議書(案)」
を作成して、家庭裁判所に提出することになります。
ここで重要なのが、未成年者である16歳の子の利益を守ることです。
家庭裁判所では、未成年者の法定相続分を確保できているかなどを確認します。
今回のケースでは、16歳の子の法定相続分は原則として4分の1です。
したがって、例えば、
- 妻 2分の1
- 19歳の子 4分の1
- 16歳の子 4分の1
という法定相続分どおりの遺産分割であれば、未成年者の権利が確保された内容となります。
一方、16歳の子の取得分を極端に少なくするような遺産分割を予定している場合には、家庭裁判所でその内容が慎重に検討されることになります。
家庭裁判所の案内でも、未成年者が関係する遺産分割では、原則として未成年者の法定相続分を確保する必要があるとされています。
6.特別代理人が選任されたら、遺産分割協議を行う
家庭裁判所から特別代理人が選任されると、その特別代理人が16歳の子を代理して遺産分割協議を行います。
今回のケースでは、
- 妻 → 自分自身の相続分について協議
- 19歳の子 → 自分自身で協議
- 特別代理人 → 16歳の子を代理して協議
という形になります。
つまり、妻が16歳の子の代わりに遺産分割協議書へ署名するわけではありません。
16歳の子については、選任された特別代理人がその子を代理します。
7.遺産分割協議が成立したら、名義変更などを行う
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書を使用して、それぞれの財産について必要な手続きを行います。
例えば、
不動産がある場合
相続登記を行います。
預貯金がある場合
金融機関で相続手続きを行い、預貯金を各相続人が取得します。
株式などの金融資産がある場合
証券会社などで相続による名義変更・移管などの手続きを行います。
このほか、生命保険、車、その他の財産についても、財産の種類に応じた手続きが必要になります。
このケースの相続手続きの流れ
今回のケースを簡単にまとめると、次のようになります。
① 夫が死亡
↓
② 戸籍を調べて相続人を確定
↓
③ 妻・19歳の子・16歳の子が相続人と確定
↓
④ 財産・債務を調査
↓
⑤ 遺言書の有無を確認
↓
⑥ 遺産分割が必要な場合、遺産分割協議書(案)を作成
↓
⑦ 16歳の子について家庭裁判所に特別代理人選任を申立て
↓
⑧ 特別代理人が選任される
↓
⑨ 妻・19歳の子・特別代理人で遺産分割協議
↓
⑩ 遺産分割協議書を作成
↓
⑪ 不動産・預貯金などの相続手続き
という流れになります。
「未成年だから何もできない」というわけではありません
未成年者が相続人になった場合でも、未成年者が相続できないわけではありません。
16歳の子にも、法律上の相続権があります。
大切なのは、未成年者の相続する権利を守りながら手続きを進めることです。
特に、親も相続人になっている場合には、親と未成年の子との間で利益が相反するため、特別代理人が必要になることがあります。
なお、相続人が未成年者であっても、必ず特別代理人が必要になるとは限りません。例えば、遺言書があり、その内容によって遺産分割協議自体が不要となる場合など、具体的な事情によって手続きは変わります。
また、相続放棄をする場合などにも、未成年者について特別な検討が必要となる場合があります。
相続人に未成年者がいる場合は、早めの確認が大切です
相続手続きでは、戸籍の収集、財産調査、遺言書の確認、相続放棄の期限など、同時に進めなければならないことが多くあります。
特に未成年者が相続人に含まれている場合、遺産分割協議を始めてから「親が子どもの代理人になれない」と気付くと、手続きに時間がかかることがあります。
「相続人の中に未成年者がいる」場合は、できるだけ早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
当事務所では、未成年者が相続人となる場合の相続関係の整理、必要な手続きの確認、遺産分割協議書の作成などについてご相談をお受けしています。
お気軽にご相談ください。